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ユアタリ
筆者
20代ゲイ。映画と漫画好きのしがない会社員。Netflix・Amazonプライムユーザー。長生きはしたくないタイプ。

【考察】映画:紙の月 〜彼女は単なる横領犯じゃない〜【ネタバレ】

目次

あらすじ

銀行勤めの平凡な主婦が引き起こした大金横領事件のてん末を描いた、『八日目の蝉』の原作などで知られる直木賞作家・角田光代の長編小説を映画化。まっとうな人生を歩んでいた主婦が若い男性との出会いをきっかけに運命を狂わせ、矛盾と葛藤を抱えながら犯罪に手を染めていく。監督は、『桐島、部活やめるってよ』などの吉田大八。年下の恋人との快楽におぼれ転落していくヒロインの心の闇を、宮沢りえが体現する。

紙の月 – 作品 – Yahoo!映画

「紙の月」はどこで観れる?

予告編

注意:下記よりネタバレです

今回のトリガー

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「私の手、見張っててくれませんか?」

AKB卒業後女優としての才能を開花させた大島優子である。

大島優子はすごい。ウシジマくんの映画に出演しているときも思ったが、演技が本当にそれっぽい。違和感がなく見えるし、大島優子という顔を捨てないままその役柄にフィットさせている。監督や演技指導の技ともいえるが、彼女自身の努力もあるのだろう。

それはさておき、本作では銀行の窓口として働く大島優子がトリガーとして主人公である宮沢りえ演じる「梅澤梨花」の凶行を働かせる。

「ありがち」として誰もが想像する行為を彼女(大島優子演じる「相川」)が梨花をどんどんエスカレートさせていく。発端としては、大島優子が警告と言う名の「誘惑」をしている場面がある。

相川自身は梨花に対して直接的に横領を唆したことは一回とてない。

しかし、「馬鹿らしくなっちゃって、こないだもデパートで買い物しすぎてカードの支払いやばいんです」など、物欲などなかった普通の主婦兼契約社員として働く梨花の暴走にガソリン…いやニトログリセリンをドバドバ投入するのだ。

相川の行動をまとめてみる

  1. 銀行の窓口で勤務しており、毎日お金を触ることにより物欲増大→買い物
  2. 同僚の送別会で退職する先輩に貯金をきく、バブル時の金額をさらっと言う
  3. 「馬鹿みたいになってきた」と梨花に発言
  4. 更衣室で梨花に「愛されてるってこと」の証拠として不倫相手からのプレゼントのロレックスの腕時計を見せる、不倫を暴露
  5. 200万を返金してきた平林(後述)の金の預金事務手続きをしている中、梨花の悪行の思惑通り書損処理を梨花に流れで任せてしまう
  6. ヅラの次長(不倫相手)に支店の数字操作を任される
  7. 「ダメですかね…一瞬借りて戻すとか」・「私の手、見張っててくれませんか」(上の画像の場面)と冗談気味に梨花に発言
  8. 梨花の知らないうちに地元の男性(公務員)と寿退社

とにかく、相川の言動によって梨花は顧客(平林)の孫(光太)と不倫をし、何度も身体を重ね、光太の借金をどうにかしようと偏屈な平林の200万を横領、さらに他の顧客たちの金を横領し、高級ホテルで3泊し、BMWを買い、別宅を借り、光太のために当時の最新機種のMacを買い、結果的に途中作ったクレジットカードがたかだかランチの1食分も払えないほどの悪行(横領、横領に付随する詐欺行為など)を重ねてしまう。

だが、相川は一切直接的に唆してはいない

相川自体は年齢相応の拙さが目立つが、次長の支店成績の操作をする、結果的に抑えるところは抑える(寿退社する)など姑息。しかし、ある意味では彼女もまた金に翻弄された人間のうちの1人。

今回の池松壮亮

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梨花が勤める、わかば銀行の顧客の平林の孫、光太である。

今回また女性に欲情し、腰を振る。(ある意味違う)

「紙の月」本作では、学費のために150万借金をした大学生の役。

わかば銀行の顧客である平林の家に、はじめて営業に来た梨花を見てセクハラか何かされているのかと勘違いし、梨花をはじめて見た瞬間に惚れた模様。後日、駅で再会し、ストーキングしてしまうクソっぷり。

夫婦仲がマンネリ化している梨花が目線だけでホイホイついてきてしまい、一緒にラブホテルに来るも、(部屋の中まで入っておきながら)梨花が理性を取り戻し帰ろうとするのを物理的に妨害。結果梨花に自分とのセックスを味わせることに成功し、関係が深くなるに連れて梨花の横領の目的の重要なファクターの1つとなる。(後述)

梨花から不本意ながらもお金を借りてしまい、梨花がお金持ちだと思わされた結果、天狗になり、高そうなカフェのテラス席のパラソルを動かすよう偉そうに店員に言うなど、クソっぷりが目立つ。

さらには不倫しておきながら同じ大学の女の子と二股してしまった理由に、謝罪しながらも『(梨花のお金が潤沢の?)この生活がいつまで続くかわからない』など意味不明な理論を展開し梨花とは破局。

結果的には、梨花が平林から横領した200万を梨花から借り、サラ金?に借りていた金を全額返済し、ホテル生活の後学費の心配がなくなったせいなのか、生活が乱れたせいなのか梨花に告げず大学を中退。ホームページ制作の勉強をしながら先輩にその仕事を斡旋してもらう生活をしているものの、納期が急すぎるなどして成り立っていないにも関わらずアルバイトは途中で辞めている。

梨花から借りたお金は物語が進むに連れて返済金額が減り、梨花との関係が切れた後は美味そうなクレープを若い女の子と食べながら街中を歩いてジ・エンド。結果的に身分相応な生活のほうが彼のためであったが、結果的に金に翻弄された人間のうちの1人。

梨花が横領していたことは劇中最後まで知らなかった。

そもそも梨花は先天的な倫理異常者

劇中、過去のシーンが流れるのだが、梨花は過去にミッション系の学校に通っており、水害を起こした海外に募金するプログラムに募金し、やがてクラスメイトたちが募金しなくなったとわかると、過去に募金していた金額分の5万円を父の財布から着服し募金する。

シスターと話をするのだが、そもそも当時から梨花は犯罪だとわかっていても、後述する言葉の通りに道徳観念が固定されてしまう。

「あなたがたもこのように働いて弱い者を助けるように、また、主イエス御自身が受けるよりは与える方が幸いであると言われた言葉を思い出すようにと、わたしはいつも身をもって示してきました。」

使徒言行録20章35節

光太の話に戻るが、借金苦である光太を救うために(=受けるよりは与えるほうが幸い)一切手を差し伸べない祖父(平林)のお金、200万が手元にあったことが横領の発端であり横領のファクターの1つになってしまった。(他のファクターは言うまでもなく横領した金で得た経済基準の上昇した生活の維持や、光太にお金持ちだと思わせる必要の維持など)

それまでにも、営業の身でありながらクリニークなどのデパコスの店舗営業の口車に乗ってしまうなど他人には流されやすい。自分の意志がないようかのような、まるで離人症に似たものを感じる。クリニークの営業が特別上手なわけではない。上手だけど。

発端こそ光太の借金だが、途中エスカレートしていった間接的な後押しに相川の発言があったりするが、そもそも梨花の倫理概念が逸脱してぶっ壊れていて、「偽物なんだから」というサイコな物言いをかましている。

梨花の現実味を感じないことの理由として、劇中の演出等を考えるともともとの家庭が裕福であったこと、ミッション系の教えが犯罪行為との線引きを混沌化してしまったことなどが挙げられる。

結婚はしているものの、旦那が自分のプレゼントしたペアの腕時計を「これくらいのがちょうど欲しかった」など軽く言ってしまう旦那にも、間接的に原因があるといっていい。自分本位な旦那であるが、世間的には何ら問題はなく見えてしまうが故に、梨花にとっては起爆剤になり得てしまった残念な旦那

あなたがもっと真に梨花を愛していれば、プレゼントした腕時計に対しての評価を変えていれば、腕時計のプレゼントを梨花からもらっておきながら、中国からの帰国の際カルティエの腕時計なんてあげなければ…とタラレバをかまさずを得ない。

本人には悪気はないのだが…。プレゼントに関しては逆に悪気がないのが怖い。時代背景としては1994年なので、共働きも少なくやはり「主婦」としてしか見えてないのか。

ってここまで書いていて思ったが梨花自身が爆弾であり火種であり、周りの人間が殆ど燃料というのはいささか救いがない(笑)理性を止められなかったものが悪いのであって、間接的な誘惑があったとしても彼らは非がない…はず。

劇中では横領した金額の全てが明かされなかったものの、途中消費者金融?に電話をかけている梨花の言葉から3000万円以上もの金を横領していることは確実。1億は盗っている…?

支店の会議室のある2階から大きなガラスを椅子で割り、「一緒に行きますか」と言われるシーンはある意味恐怖を感じる。なぜならその前に「あなたがいけるのはここまで」と宣言されているのにその相手に誘いをかけているからだ。

なにより2階から飛び降りてパンプスで全速力で走れる梨花が怖い。走っているシーンの顔のアップは本当に圧巻するほど綺麗だけども。毛穴どこだよ毛穴

受けるよりは与えるほうが幸い

逃亡後のオチとして、前述した『過去に水害を受けた海外』に飛んだ梨花はある人物に出会う。

それは募金した先から貰った手紙の主。顔に特徴的な傷があることで判明するのだが、その彼から娘が落とした売り物の果実をあげると現地の言葉で言われ、逆に「受けるよりは与えるほうが幸い」を与えられてしまう。

だからすごい顔で果実をこの彼の前で食べるのね。

その後、指名手配されている梨花は警察が近づく音を察知したのか、「与えられた」ショックのせいなのか、異邦のマーケットの中を足早に消えていく。

「与える」

これまで、この記事で何度か「与える」描写の記述や使徒言行録のワード(受けるよりは与えるほうが幸い)を書いてきたが、梨花は他人を助けることが実は慈愛によるものではない。

最大の横領のファクターは『人助けをしている自分のため』である。夫婦間のマンネリによる破滅的願望や変化を求めていた梨花にとって、他人(光太)を助けて見栄のようにも見える多額に横領した金銭の受け渡しや散財をしている自分に酔っていた。朝帰りをしたとき「身体が軽くなった」と梨花自身も言っている。

単純な、若い男にハマってしまう過程で横領した映画ではない。

宮沢りえのような美しい女優でなければ、ただの(いろんな概念的に)醜い横領犯になってしまう。

自分のためでなければ、横領したものを継続しようともしないし、発覚後に2階から飛び降りて海外に高飛びすることもないだろう。そう思うとこの女の醜悪さに底が見えず、今まで綺麗だと思っていた分比例してゾッとする。ホストに貢ぐ女の範疇どころの話ではない。

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