本記事は、『犬鳴村』に関する考察記事です。作品の重要なネタバレを取り扱っております。こういったものに、免疫のない方の閲覧はお控えください。
本記事を閲覧することによって、起こり得た事象については責任を負いません。予め、ご了承ください。
「恐怖」とは
恐怖とは、理解できないもの、わからないもの、知覚できないもの、
そして対処できない「もの」である
解説
「呪怨」シリーズなどで知られるホラー映画の名手・清水崇監督が、福岡県に実在する心霊スポットを舞台に描くホラー。主演は「ダンスウィズミー」の三吉彩花。臨床心理士の森田奏の周辺で奇妙な出来事が次々と起こりだし、その全てに共通するキーワードとして、心霊スポットとして知られる「犬鳴トンネル」が浮上する。突然死したある女性は、最後に「トンネルを抜けた先に村があって、そこで○○を見た……」という言葉を残していたが、女性が村で目撃したものとは一体なんだったのか。連続する不可解な出来事の真相を突き止めるため、奏は犬鳴トンネルへと向かうが……。主人公の奏役を三吉が演じ、坂東龍汰、大谷凛香、古川毅、奥菜恵、寺田農、石橋蓮司、高嶋政伸、高島礼子らが脇を固める。
監督 | 清水崇 |
原案 | 清水崇 |
脚本 | 保坂大輔 清水崇 |
出演 | 三吉彩花/坂東龍汰/古川毅/宮野陽名/大谷凜香西/奥菜恵/須賀貴匡/田中健/寺田農/石橋蓮司/高嶋政伸/高島礼子/梅津陽/笹本旭 |
総合評価 | |
怖さ | |
面白さ |
予告編
都市伝説の犬鳴村伝説について
福岡県に有名な心霊スポット『犬鳴トンネル』があります。
このトンネルには、新と旧の2つのトンネルが存在し、新犬鳴トンネルは現在も車で交通可能なトンネルだが、旧犬鳴トンネル(犬鳴隧道)は不法投棄やトンネルそのものが崩落の危険があり、閉鎖され近づくこともできなくなっている。
犬鳴村伝説
「旧犬鳴トンネル近くに、法治が及ばない恐ろしい集落『犬鳴村』があり、そこに立ち入ったものは生きては戻れない」という都市伝説。
- トンネルの前に「白のセダンは迂回してください」という看板が立てられている。
- 日本の行政記録や地図から完全に抹消されている。
- 村の入り口に「この先、日本国憲法は適用しません」という看板がある。
- 江戸時代以前より、激しい差別を受けてきたため、村人は外部との交流を一切拒み、自給
- 自足の生活をしている。近親交配が続いているとされる場合もある。
- 入り口から少し進んだところに広場があり、ボロボロのセダンが置いてある。またその先にある小屋には、骸が山積みにされている。
- 旧道の犬鳴トンネルには柵があり、乗り越えたところに紐と缶の仕掛けが施されていて、引っ掛かると大きな音が鳴り、斧を持った村人が駆けつける。「村人は異常に足が速いと続く場合もある。
- 全てのメーカーの携帯電話が「圏外」となり使用不能となる。また近くのコンビニエンストアにある公衆電話は警察に通じない。
- 若いカップルが面白半分で犬鳴村に入り、惨殺された。
出典:Wikipedia
上記の犬鳴村伝説をもとに訪れる人は多いが、そんな都市伝説よりも本当に怖いのが、ここで本当に殺人事件が起きていることなんですよね…。ほかにも死体遺棄事件などもあったりと、いわくつきであることは間違いはないです。それらを元に都市伝説化したのかもしれません。
旧犬鳴トンネル(犬鳴隧道)周辺は、バリケードのほかに監視カメラなどがあります。禁止区域に入ると不法侵入となるため、柵を乗り越えるなどの行為は絶対におやめください。
注意:下記よりネタバレです
受け継がれる血脈
本編の主人公、三吉彩花演じる森田奏は臨床心理士。
勤めている病院で、担当している患者の男の子(笹本旭演じる遼太郎)の様子が、臨床心理学においての症例などとは異なることに気づいていた。たとえば、両親が教えていないにも関わらず、遼太郎が自分の出自(血縁関係がないこと)を知っていることをほのめかしたりすることなど。
さらに、遼太郎の周辺がおかしいことに気づき、遼太郎の近くに幽霊がついていることがわかっていた。これに加え、自身の幼少期に特異な存在が見えることが度々あったことから、奏には何か特別な「血」を受け継いでいることが序盤でわかる。
全員が溺死の理由
(映画の)犬鳴村は、現在ダムに沈んでいます。過去に、ダムを建設したい電力会社による工作により、村は外界と孤立されられ、さらに「犬と交じっている」などの悪評を流された当時の犬鳴村の村人をうまく騙し、全員ではないにしろ惨殺し、ダムの底へと沈めさせるのです。
供養されることなく、恨みを抱いたままダムに沈んだことから溺死が犬鳴村の村人による被害者の『特徴的な死因』になっているのではないでしょうか。
簡単に死んだ人間と、生き残った人間の違い
犬鳴村に立ち入った人間や、その関係者が次々と死んでいくなか、なぜ殺されているのか、そしてなぜ殺されないまま生かされている人間がいるのかが映画の中で謎でした。(後述)
映画での最初の被害者は、動画配信者(?)のアッキーナこと明菜です。本作は、彼女を撮影する悠真との2人のシーンから物語が始まります。
このシーンは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『ノロイ』のようなPOVなので、臨場感があります。
深夜2時に犬鳴川にある公衆電話にかかってくる電話を出ると、犬鳴村に向かうことができることがわかった明菜と悠真。トンネルの先にあったのは古い家屋ばかり。そこでトイレ休憩中に「何か」に襲われる明菜。2人で逃げ帰ってきたものの、何やら様子のおかしい明菜。対して、特に何も変化がない悠真。
―――なぜでしょう?
このあと、悠真の家にいる明菜は「おしっこ行ってくる」と言い残し、おしっこを垂れ流しながら裸足で歩き、わらべ唄「ふたしちゃろ」をずっと歌い続けます。その後、明菜から電話がかかってくる。鉄塔から電話をしながら飛び降りたのだ。しかし、死因は肺が水に満たされたことによる『溺死』。
明菜の死と、「自責の念をなんとかしたい」と考えた悠真は後輩たちを連れ、日が明るいうちの犬鳴トンネルへと再び向かうのですが、以前行ったときにはなかったブロックがあり、簡単には進めませんでした。
明菜のことで頭がいっぱいになり、感情的になった悠真。一人でトンネルの中へと進みます。後輩たちは悠真にはもう付き合ってられないと、踵を返すのですが、そこには悠真の弟の森田健太が隠れていました。『犬鳴村』の自由研究の調査も兼ねて、兄のもとへこっそりついてきたのです。
その結果、悠真も健太も犬鳴村の幽霊たちに攫われてしまいます。
翌日、警察とともにやってきた悠真の後輩たちと、悠真と健太の両親。
感情的になった悠真と健太の母親は、興奮のあまり旦那に動物のようにガブリと噛みつきます。周りが止めに入り、我に返ると「あなた血が…!」と噛み付いたことを、まるで自分がしたとは知らないかのように心配します。
―――なぜでしょう?
母親はこの後、様子がどんどんおかしくなっていきます。父親はあんなに毛嫌いしていたにも関わらず、しっかりと世話をするのも、妻に対して温情があるからなんでしょうね。家には謎に誰かから落書きされていたりと荒れ放題ですが…。
そして、犬鳴村に行ったわけでもない、明菜を司法解剖した山野辺医師や悠真の後輩たちが次々溺れ死んでいきます。このあたりだけ、プチ呪怨。呪いの範囲とタイミングがガバガバ。(清水監督だからこその呪いサービスか?)
犬鳴村の正体
奏はこの騒動に自分の『森田家』の系譜を知る必要があると思い、母方の実家へ向かいます。そうして、奏の祖母は実はある日家に放置された赤ん坊だったことがわかります。
その後、幼少期から祖母と一緒に見えていた善良な幽霊に、過去の映像を見せてもらい、ついに犬鳴村がダム湖へ沈んだ経緯がわかります。
奏は生きているかもしれない弟2人を助けるべく、善良な幽霊にガイドされながら、午前2時の電話ボックスを使い、ついに犬鳴村へと向かいます。
道中、犬に襲われながらもついに悠真と健太が閉じ込められているところを発見。鍵は獰猛な犬がいるところにあるが…。そこにはガイドの善良な幽霊の想い人の摩耶が。そして抱えているものは、赤ん坊。
「ははぁ、つまり次元の歪み的なもので午前2時には公衆電話を通じてダムに沈んだはずの過去の犬鳴村へ繋がっているんだな!」そう思いながら見ていると、どうもおかしい。
ちょっとまってくれ。他の人間は溺死だったり使役されたり呪怨みたいになっているのに、どうして悠真と健太は五体満足なんだ?
犬鳴村の系譜
善良な幽霊が見せてくれた映像によれば、犬鳴村の住人は一部を除き、電気会社の人間たちによって惨殺され、ダムに沈みました。脱出して生き残った一部の村人は、それぞれ離散して別々の子孫を繁栄していったということです。
悠真と健太が監禁された家屋から脱出する奏は、「俺たちの赤ん坊を助けてくれ」という善良な幽霊のお願いもあり、赤ん坊を抱えて逃げます。
そして、出入り口である犬鳴トンネルへ。そこには大量の犬鳴村の村人の幽霊が。その中には摩耶が。どうやら様子がかなりおかしい。「私の赤ちゃんを返せ」と言いながら、だんだん動物のような邪な面相と動きに変化していき、反復横跳びのような高速移動を左右にします。犬をイメージしているんでしょうね。
しかし、悠真と善良な幽霊の決死の止めもあり、奏は健太と赤ん坊を連れてどうにか脱出。力尽きたところで赤ん坊だけ過去の森田家の母方の実家へ、つまりこの赤ん坊は奏たちの祖母だったんですね。奏と健太は、犬鳴村の歪みから脱出した様子。
後日発見された悠真の死体には2つの古い死体が掴まるように一緒にいた。
善良な幽霊と摩耶ですね。
なぜなのか?の答え=SFか
一連の奏の祖母の扱いを考えると、(祖母が母を、母が奏・悠真・健太を生むために)タイム・パラドックスを起こさないために、監禁はされど、殺されはしなかったということになる。(悠真は結果的に道連れになってしまったが…)
見ていてところどころドラえもんかなぁと思ってたらドラえもんだった。
午前2時の公衆電話に誰かからかかってきた電話に出ると、過去へ行けるという、もしもボックスとタイムマシーンのようなトンネル。そして、タイムパラドックス関連は劇場版の旧ドラにしか見えない。
最後の「おともだち」とは?
奏の母が錯乱して旦那に噛み付いたことと、森田家の母方の系譜が摩耶(犬女)につながっていることから、奏と悠真と健太も『犬』の血を受け継いでいるという解釈でいいだろう。
そして、それを告げた遼太郎も奏と同じく『犬』の血を受け継いでおり、犬鳴村からの系譜はすべて霊が見える、ということになる。
さらに言えば、「犬化」したときは奏の母のように記憶をなくしてしまう、という意味だろう。だから獣のような顔で終わった、というなんとも「世にも奇妙な物語」のような終わり方だ。
深読みをするなら、わらべ唄の『ふたしちゃろ』から、「臭いもの(犬鳴村をダムに沈めた経緯)に蓋をした人たちへの皮肉」と取ってもいいかもしれない。
歌詞的には(蓋をする対象である犬女の)摩耶のこと。
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